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第三十四話 束の間の休息

Auteur: 文月 澪
last update Dernière mise à jour: 2025-12-20 16:00:24

 腹ごしらえも終えて、次に向かったのは宿舎だ。十五階建ての臙脂えんじ色のマンションが四つ並ぶ中、二番目の建物に足を踏み入れる。そこはだいぶ古びてはいたが、リノベーションされているのか住み心地は悪くなさそうだった。

 薄暗いエントランスを進み、エレベーターを呼ぶ。優斗達の部屋は十二階だ。部屋は十階までの下層に単身向け、十一階から上層がファミリー向けに作られている。優斗達は二人なのでファミリー向けの部屋が割り振られていた。実際にはファミリー向けと言っても優斗達の様にバディ同士で入居している方が圧倒的に多い。動くのに都合がいい上、家賃も抑えられるからだ。他にも職場結婚して部屋を移る例もあるとか。

 部屋の割合からいって単身者が多いのだろう。陰陽寮の仕事柄、家庭を持つのは難しいのかもしれない。玲斗の様に離れて暮らす例もあるようだがそれもごく一部だ。

 十二階に到着すると、エレベーターを降り一番奥、一二〇七号室の前まで辿り着く。扉は白い鉄製だ。律が鍵を取り出し鍵穴に差し込めば、それは簡単に回りガチャリと音がした。

 律はにっこり笑うと弾むように声を上げる。

「ここが今日から俺達の愛の巣だよ~。さ、入って!」

 開かれた扉の向こうには廊下が伸びている。少し埃っぽい匂いと、微かな律の匂い。どうやら先に律の荷物は運び込まれているようだった。

 靴を脱いで室内に上がると、律がそれぞれの扉を開けながら案内する。

 まず最初にあるのが律の部屋。玄関から入って左側だ。窓の無い八畳程の洋室にセミダブルベッドと勉強机、それからタンス。片隅にはクローゼットがある。意外に物が少ない。勝手に散らかっている部屋を想像していた優斗は拍子抜けしていた。

 だが今日が初日だ。これから散らかる可能性は十分ある。

 それに何を勘違いしたのか、律は照れながら優斗の顔を覗き込む。その目に要らない色気をたっぷり乗せて。

「いつでも遊びに来ていいからね。鍵は開けとくから。ベッドも新調したんだ。シングルじゃ狭いからね。俺の隣は優斗の物だよ」

 それに侮蔑の表情で返すが、律は何故か喜んだ。どんどん悪い方へ拗らせている気がしてきて、優斗の背を冷や汗

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